『イリヤ・ムウロメツ』筒井康隆 絵:手塚治虫 講談社 '85年12月

色の白く美しい男イリヤは、生まれてから30年間、体を動かすことが出来なかったが、或る日やってきた3人の旅人の不思議な力によってロシヤ一の勇者になる。そして彼はロシヤ正教を守る戦いのため、聖なる都キエフに向かうのだった・・・
ええと、解説によると、イリヤはブィリーナと呼ばれるロシアの英雄叙事詩の主人公らしいです。で、その詩を小説にしたのが『イリヤ・ムウロメツ』なわけですな。なるほど。・・・しかし、何故筒井が? そして何故挿絵が手塚治虫? ものすごく無駄に豪華な気がするのですが。それともこれ全部(作者も挿絵も含む)で一つのギャグなんですか?
なんか、すごく民話っぽいなぁとは思う。一度の過ちで絶対妊娠するあたりとか(笑)。やっぱり、英雄が年をとると子孫を登場させたくなるものなのか。あと、ロシアではいくら酒を飲み、いくら飯を食うかで力自慢をするらしいというのが新鮮な発見だった(笑)。ところ変われば。
三人の旅人は「東方の三賢者」だよね。マギだ。カスパーとバルタザールとメルキオールだっけ? ん〜、別の話になってくるからやめよう。(021106/039) 


『驚愕の曠野』筒井康隆 河出書房新社 '88年2月

おねえさんは言う。長いながいお話を、もう半分近く読んでしまったと。そしておねえさんは第332巻を読み始める。それは曠野を旅する男たちの物語・・・
書評とか無理。そんな。何言っても、これから読む人の「驚愕」を減らしてしまう気がするし。あらすじ書こうにも、あらすじなんか無いし。
読んでて、『幻想の未来』を思い出した。あれも乾いた大地の話だったからかもしれない。あと、スケールの大きさも。大きさの種類は違うんだけどさ。『驚愕の曠野』は、合わせ鏡の向こうにどこまでも自分の姿が続いているのを見ているような感覚になる。どこまでもどこまでも。アイデアの勝利と言うより、そのアイデアをこうして作品にして、読み物として完成させているところがすごいのだと思う。
この細長い文字組みのお陰で巻物と勘違いしてたのですが、P106によると和綴じだそうですね。なんだかタイムリーに今月新潮文庫で『驚愕の曠野―自選ホラー傑作集 2―』として刊行されたらしいですが、2ちゃん筒井スレ曰く文字組みが普通なんだってね。つまんないの〜。あたしは河出版推奨です(笑)。ってか、『驚愕の曠野』がホラーだという事実を初めて知った。なんだか最近、本のジャンル分けに納得のいかないことが多い。怖かったら全部ホラーっすか? なら間違いなくホラーだけど。鳥肌がたつ。恐怖で? むしろやっぱ、「驚愕」で、かな。
最後に、言ってもどうしようもないことを言う。影二と小清の旅路を詳しく読みたかった。五英猫と影二の生活を描写して欲しかった。ってか、第1巻から読みたかった〜。(021106/038) 


『薬菜飯店』筒井康隆 新潮社 '88年6月

短編集。表題作他計七編収録。
「薬菜飯店」食べ物を扱ってるのにもかかわらずこんだけ食欲をそそらない話も珍しいかと。
「法子と雲界」いかにも言い伝え風の書き方が素適。
「イチゴの日」この上なく醜い女の人生を生まれた瞬間から買い取り、マスコミの力で世紀の美少女アイドルとして育て上げ、彼女の18歳の誕生日に真相を明かすと言う壮大なプロジェクトの結末は。あたしが常々主張している、「最近ホントに美人のタレントがいない」は80年代から言われてることだったんだねぇ。
「秒読み」核戦争に向けて秒読みを始めた世界から、40年前に溯った男の話。初めて読んだ時、ボブ・ギャレット大佐の思考からボブ少年の思考への移り方の巧みさに溜め息を吐いたことを思い出します。
「ヨッパ谷への降下」蜘蛛のようで蜘蛛じゃないかもしれない、世にも美しい巣をつくるヨッパグモ。そしてヨッパグモに食われかけたせいで不思議な論理を生きることになった朱女。この二者によって作られる幻想的な世界。もうひとつの論理による会話が、読んでいて心地良くてたまらない。最も好みな一編。
「偽魔王」ホントにどうしろと。
「カラダ記念日」だからホントにどうしろと。(011008/015)


『夜のコント・冬のコント』筒井康隆 新潮社 '90年4月

短編集。今一つ好みではないなぁ。
好きなのは「夢の検察官」と「鳶八丈の権」だけどどっちも読んだことあったし。「夢の〜」は根底にある設定が切ないのに、そこをクスリとさせる検察官と書記のユーモアあふれるやりとりが素適。「鳶八丈」は、どうも最近時代物が好きになりつつあるあたしの嗜好に合致したらしい。ずっと食わず嫌いだったんだけど、もっと読むようにしてみようかしら。時代物。
「都市盗掘団」は設定とか雰囲気は好きなんだけどなぁ。死ぬけど死なないとか。時さんの描写がもうちょっと可愛かったら。(010927/010)


『天狗の落し文』筒井康隆 '01年7月

くっだらねぇ〜。←褒め言葉
「小説新潮」にて91年4月号から01年六月号に不定期連載されたもの+書き下ろし計356編が収められています。あたしは図書館で借りて読んだから見てないけど、オビには「盗作ご自由」とあるらしいので皆さんふるって盗作して直木賞なり乱歩賞なりとってくださいね☆ ってか百八十四頁の「ミステリー作家各氏に提出する挑戦。」はホントに上手い人が書いたらかなり綺麗なものになりそうで本気で楽しみなんだけどにゃ。
因みにあたしが一番好きなのはこれ↓
あなたを褒める者が一人いれば、十人の敵がいると思いなさい。あなたに敵がいなければ、あなたを褒める者は一人もいない。(010905/003)




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